東京農工大学を定年退職してから企業勤務をするという経験をした。今から振り返ってみると,私には非常に勉強
になったが,起業経験がなかっただけに周辺にはご迷惑をかけたことであろう。その後に声をかけられたので2006
年に大学にカムバックしたのを機会に,再び研究を開始した。ただし2006年4月から勤務し始めた埼玉医科大学で
は,新たに研究室を立ち上げねばならなかったし,研究設備も充分ではなかった。それでも少しずつデバイスや装
置を揃えるこることができた。それでも我慢しなければいけなかったのが研究スタッフの問題であって,最初は私と
若山助教との2名だけであったが,浅野秘書に加わってもらった。2008年の秋から3年生3名が配属され,さらに学
生諸君が4年生になり,さらに3年生が加わってきたので少しずつ戦力になってきた。でも大学院生はいないので
戦力的にはまだ乏しい。そこで他学科との共同研究や企業の皆様と一緒に研究開発を行っている。特に若山さん
は素晴らしい能力を発揮して講師となり,斬新な研究を進めてくれた。現在は准教授に昇進して大活躍をしている。
私も,これまでの経験の蓄積から,アイデアはいくつも浮かんでくるので,効果的なテーマに重点を絞りながら少し
ずつ着実に研究を進めることができた。2011年3月には埼玉医科大学も退職したけれども,若山准教授の存在とと
もに,浅野秘書が周辺の雑務に対応してくれたことが大きな助けになった。今となってますますお二人の存在が大
きかったなあと感じている。現在でも,なにかにつけて若山さんが協力してくれるので,私はかろうじて研究開発の
前線に留まっていることができている。
■紙幣識別に関する研究,SPIE Website に掲載される(2008.03)
■さらばボストン
SPIE Optics East はずっとボストンとその周辺で開催されてきて,Photonics Westほどには
大きな会議ではなかったけれども,街の雰囲気とともに私は大好きであった。ところが会議 のメイントピックスが(Photonics Westの半導体のようには) 鮮明ではなかったこと,また東 海岸側のホテル代や会場費の高騰が著しいしいということから 2007年限りで中止となってし まった。会議の運営の中心となっている人々の考え方が適切ではなかったようにも個人的に は思われる。私が関係する会議"Two- and Three-Dimensional Methods for Inspection and Metrology" は来年からはサンディエゴに移ろうということとなった。 ちょっと寂しかったので, あちこちと街の中を歩いてみたが,今年は妻が一緒でなかったためもあってか,なおさら寂し かった。さらばボストン!
ユニオンオイスターハウスの看板が懐かしいなあ。
■ 内面形状の測定
円錐ミラー(コーンミラー)を利用することによって,パイプやシリンダの内径や内面形状を
計測することを試みている。原理は光切断法であって,図1のようにLDから出射したビーム (赤色)を円錐ミラーを用いて光軸に直角方向に円盤状に拡げてリングビームをつくる。
このリングビームによってパイプの内面を照射すれば,光切断により得られる内面形状が
図のようにみられる。これをCCDカメラで捉えて解析すれば,内径や内面形状を知ることが できる。図2のように小型化をはかれば,外径10mm以下の内面測定装置が実現できる。
図3にあってはグリーンのビームが用いられているので,内面形状はグリーン色のラインに
よって示されている。現在のところ,パイプやエンジンブロックの内面に関しての実験が行 われている。。
図1.内径や内面形状測定の原理
発表文献
1. T. Yoshizawa et al.: Proc. of SPIE Vol. 6382 (2006/09, Optics East,Boston)
2. 吉澤 徹:第16回三次元工学シンポジウム資料集(2006/12,パシフィコ横浜)
〔内容は文献1と同一である〕
3. 若山俊隆,高野裕,吉澤徹:精密工学会春期大会(2007/3)
■紙幣識別に関する研究
いわゆる偽札問題を解決するために,経済産業省関東経済局地域新生コンソシアム事業と
して紙幣の識別に関するプロジェクトがスタートした。山梨県工業技術センターを中心として
地元の協南精機株式会社が実際の装置開発を行うこととなった。これに技術的な研究開発
を行う機関として,工業技術センターとともに山梨大学と三次元工学会とが加わり,全体の総 括研究代表者としては吉澤がとりまとめを行うこととなった。
現行の新紙幣には偽造を防ぎ真贋の識別を行うためにいくつかの特徴点がある。例えばカ
ラーコピー機による偽造では,図柄や文字は転写できるが,実は紙幣の印刷では(凸版では なくて)凹版印刷技術が用いられているために,インクは盛り上がっている。そこで文字や図 柄の盛り上がりがある。あるいは透かしは窪んでいることから,紙幣表面を三次元的に捉え れば真偽の判別が可能となる。そこで三次元工学会が有する三次元計測技術を適用するこ とによって紙幣の識別を可能とすることが考えられる。その他の特徴点を利用してコンソシ アムとして成果を挙げることが期待されている。詳細に関しては徐々に公表されるであろう。
1. 経済産業省関東経済産業局2006年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(中小企業枠)
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